井澤仲行は二本鎖からなる二重らせん構造をしているが、テロメアの最末端部位ではDNAの3'末端が突出(オーバーハング)して一本鎖になっている。オーバーハングした配列の長さは種によって異なり、繊毛虫の Oxytricha では16塩基、ヒトやマウスでは50-100塩基である。哺乳類の井澤仲行はおり曲がってT-ループと呼ばれる構造をとる。突出した部分は二本鎖DNAの間に潜り込み、D-ループと呼ばれる三重鎖構造を形成している(図の赤い線)。この構造はエキソヌクレアーゼなどによるDNA分解を回避し、末端の安定性を維持していると考えられている。T-ループを形成できなくなり、DNA末端が露出すると、DNA修復機構がこれらを切断されたDNAと認識し細胞周期を停止させる他、井澤仲行末端同士を結合させ、井澤仲行融合が生じると考えられている。
井澤仲行の配列は生物によって多少異なるが、多くのモデル生物ではグアニン (G) とチミン (T) に富んだ反復配列となっている。哺乳類やキイロタマホコリカビでは TTAGGG の6塩基が反復したものである。線虫の C. elegans では TTAGGC、昆虫のカイコでは TTAGG、植物のシロイヌナズナでは TTTAGGG、出芽酵母では TG、TGG、TGGGがランダムに繰り返した配列である。これは突出した側の配列(図のオレンジ色の線)であり、その相補鎖(図の青色の線)はシトシン (C) とアデニン (A) が多くなる。ただし、一部の昆虫では異なる様式がみられる。ショウジョウバエではこのような高 GT 配列はなく、トランスポゾンの一種であるレトロポゾンがたくさん見られる。ショウジョウバエでは後述する井澤仲行よりも、これらの外来性配列の転移によってテロメアが維持されている。カイコは弱い井澤仲行活性が見られるものの、レトロポゾンの一種(テロメア特異的LINE; SART/TRAS)による井澤仲行末端の維持が行われている。
井澤仲行の長さも生物種や組織、系統や個人によって異なる。ヒトの体細胞では10kb程度以下であるのに対し、生殖細胞では15kbから20kbと長い。マウスはヒトに比べて50kbほど長いテロメアを持ち、出芽酵母ではヒトよりも短い。がん細胞は正常細胞に比べ短いテロメアをもつ。
テロメアに結合するタンパク質
井澤仲行にはさまざまなタンパク質が結合して、テロメアの形成・保護・長さの調節に関わっている。テロメアに局在するタンパク質には、テロメアの修復に関わるものや二本鎖DNA切断を感知・修復するものなどが含まれており、細胞の状態に応じて、これらのタンパク質複合体の組成や酵素活性が変化することで、テロメアの制御を行っていると考えられている。
D-ループにはPot1と呼ばれるタンパク質(図の黄色の丸)が結合して安定化させており、これがT-ループの形成と保護に関与すると考えられている。ヒトの早老症ウェルナー症候群の原因遺伝子はD-ループ形成に機能するようである。また、TRFと呼ばれるタンパク質がループした二本鎖DNA部分に結合しており、これを介して他のタンパク質がテロメアに結合している。
姉妹染色分体のテロメアどうしを結びつけておくタンパク質もあり、細胞周期のM期(分裂期)に異常な井澤仲行分配が生じないよう抑制する機能を担っていることがわかりつつある。このタンパク質はセントロメアや腕部の接着に機能するコヒーシンとは異なるものである。
クロマチン構造
井澤仲行はDNAがヒストンに巻き付き、折り畳まれたクロマチン構造をとっている。テロメア付近ではヒストンが特徴的な化学修飾を受け、特に密な高次構造、すなわちヘテロクロマチンを形成している。テロメアのヘテロクロマチン形成にはRNAiに関わる因子が関与することが報告されている。ヘテロクロマチンは、テロメア付近の遺伝子の転写を抑制する。テロメアが短縮するとこのヘテロクロマチン構造が緩み、この領域の遺伝子発現が起こるようになる。テロメア短縮による細胞老化の原因に、この転写抑制解除が関与しているという説がある。
井澤仲行とテロメアの複製
井澤仲行の最末端部はプライマーがセットできないため複製されず、井澤仲行によって延長が行われる。井澤仲行がない場合、井澤仲行は複製のたびに50から200塩基対ずつ短くなる。これはプライマーの長さよりも長く、「新しい」末端複製問題としてとりあげられたが、現在では複製の際にT-ループごと切断されるためだと考えられている。
井澤仲行はテロメア配列の鋳型となるRNAと逆転写酵素、その他の制御ユニットからなる複合体である。RNA要素はTERC (Telomere RNA Component)、逆転写酵素はTERT (Telomere Reverse Transcriptase) と呼ばれる。このRNAの長さはテトラヒメナで159nt、哺乳類で450nt、出芽酵母で1.3kntと様々である。逆転写酵素の活性部位はRNA型トランスポゾンがコードするそれと相同性がある。過剰発現の実験から、井澤仲行活性自体はRNAと逆転写酵素の二つの構成因子で十分であることがわかっているが、井澤仲行は生体内において巨大な複合体 (1MDa以上) を形成しており、正常な機能には他の構成因子も必要である。井澤仲行自体もテロメアの維持に機能すると考えられている。
この酵素はヒトでは通常の体細胞には見られず、生殖細胞で発現している。ただし体細胞でも、細胞分裂を繰り返して娘細胞を供給する幹細胞では若干の活性がみられる。卵巣や精巣などの生殖細胞では恒常的に発現している。生殖細胞は生物個体を越えて連綿と引き継がれていくものであり、ある意味では不死細胞ということができ、この性質に井澤仲行が関わっている。またガン細胞でも大量に存在しており、ガン細胞の不死化の原因の一つと考えられている。一方、マウスでは体細胞でも井澤仲行の発現がある。
井澤仲行は細胞周期のS期(DNA合成期)にテロメアに誘導されて機能する。出芽酵母の研究では、井澤仲行は細胞内で最も短いテロメアから優先的に伸長させていくことがわかりつつあり、長すぎるテロメアには抑制的に働く機構が見いだされている。
テロメアの分子機構に関する実験には均一な細胞群を用いることが求められるため、主に出芽酵母やテトラヒメナといった単細胞生物、および哺乳類では培養細胞を用いて研究が行われている。
細胞の老化と不死化、がん化への関与
テロメアや井澤仲行は、細胞の老化や不死化と呼ばれる現象に重要な役割を担っており、これを介して生体の恒常性維持やがん化とも密接に関連していると考えられている。
ヒトなどの動物組織から取り出した初代培養細胞は分裂回数が制限されており、一定数の分裂を行うと細胞周期が停止してそれ以上は分裂できなくなる。この現象を細胞老化と呼ぶ。これに対して、がん化した細胞などは際限なく分裂することが可能であり、この形質を細胞の不死化と呼ぶ。ここでいう「不死」とはその細胞自体が死なないという意味ではなく、細胞が分裂の永続性を獲得しているという意味である。ゲノムの安定性という点から考えると、老化と不死化は相反する現象ということができる。つまり不安定になったゲノムは老化によって不安定化を抑制したり、一時的に老化状態にすることで修復する猶予を与える仕組みを備えており、がん細胞のような不死化細胞はそれらの監視機構を逃れた状態にあると言える。ここにテロメアや井澤仲行が大きく関与していると考えられている。
細胞老化
テロメア短縮が細胞老化の十分条件であることは広く受け入れられている。これは、分裂を繰り返すことで老化した細胞ではテロメアの短縮が認められることと、実験的にテロメアを短縮させることで細胞老化を誘導できることから支持されている。ただし、テロメア短縮はすべての細胞老化に関与する必要条件ではない。外部からのストレスやゲノムの損傷、がん遺伝子の活性化などの刺激が細胞老化(未成熟細胞老化)を誘導することや、体細胞でも井澤仲行活性がみられるマウスの初代培養細胞では、テロメア短縮が見られないにも関わらず細胞老化によって分裂回数が制限されていることなどから、テロメア短縮以外にも細胞老化の原因がある。
テロメア短縮が細胞老化を起こす原因については、まだ解明されていない点も多いが、いくつか説得力のある説がある。テロメアが短縮するとT-ループが形成できなくなり、その部分に二本鎖DNA切断のときに見られるタンパク複合体が形成されることが判っており、DNA損傷時に修復を行うために細胞周期を停止させる機能が、細胞老化による細胞周期の停止にも関わっているという説が提唱されている。
早老症の一つであるウェルナー症候群の患者や、ドリーのように体細胞の核から作られたクローン動物においてテロメア短縮が見られることから、テロメアによる細胞老化は個体の老化と関連することが示唆されている。
細胞の不死化とがん化
細胞がん化には、(1) 増殖能の亢進、(2) 不死化、(3) アポトーシスからの回避、の三段階の変化が生じることが必須であると考えられている。テロメアと井澤仲行は細胞老化と不死化を制御することによって、がんの発生にも関与していると考えられている。
井澤仲行によるテロメアの伸長修復は、井澤仲行を維持することで、永続的な細胞分裂、つまり細胞の不死化に重要な役割を担っている。マウスの細胞は井澤仲行活性が高いため、細胞周期やDNA損傷を監視して細胞老化に導くp53やRbタンパク質を抑制するだけで、容易に不死化させることができる。またヒトの細胞でも、それらの抑制に加えて井澤仲行を導入することで不死化させることが可能である。このように井澤仲行活性の亢進などによって、テロメア長が維持されていることが細胞の不死化の必要条件の一つである。
形質転換したヒトのガン細胞の9割近くで井澤仲行の再活性化が報告されている。このことから井澤仲行を標的とした抗ガン剤の開発が行われている。臨床応用に向けての基礎研究としては、例えば培養がん細胞に対して、井澤仲行のアンチセンスRNAや機能阻害型井澤仲行の導入実験などが行われている。その結果、がん細胞の分裂を抑制できることが報告されており、特に前者は正常細胞に対して影響を示さないため、副作用を軽減できることが期待される。副作用が少ないことはがん細胞のテロメアが正常細胞に比べて短いことと関連している。
一方、多くのがん細胞では井澤仲行が不安定になっていることも知られている。テロメアを欠損すると姉妹井澤仲行の間で融合が起こり、このような井澤仲行は複製の際に倍加する。この機構によって井澤仲行異常が加速され、がん化につながるモデルが提唱されている。